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ナガエコミカンソウ(Phyllanthus tenellus

村上 健太郎

 

 ナガエコミカンソウ(図1)(トウダイグサ科コミカンソウ属)は,アフリカ~インド洋のマスカリン諸島を原産地とする外来植物です。同属の在来種には,コミカンソウ(P. urinaria)などがあり、コミカンソウでは果柄(花柄)がほぼないのに対して、ナガエコミカンソウでは長いので、見分けることができます(図2)。この植物は,日本では、最近まで,それほど知られた植物ではありませんでしたが、ここ10年ほどの間に,急に都市部の雑草として目立ち始め,近年、全国のあちこちで報告されるようになりつつあります。現在では関東地方から九州,沖縄地方,小笠原まで見られ,大阪でも目撃・採集記録があります(植村,2000)。私も先日,泉佐野市の市街地でこの植物を採集しましたが,よく調べれば,大阪府南部では普通に見られる植物なのかもしれません。

 

 私がこの植物に関心を持った理由は,日本の温暖な地域を中心に,かなりの速度で分布拡大しているということと,温室雑草(花卉や果樹を育てるための温室内に生育する雑草)という特徴からです。私は最近,ナガエコミカンソウと同様に温室雑草として知られているイヌケホシダ(Thelypteris dentata)の分布拡大過程やその生態について研究していますが,1970年代には大阪府内ではほとんど記録がなかったイヌケホシダも、ナガエコミカンソウと同様に,かなりの速度で分布拡大して、現在は、大阪市内や泉南地方で普通に見られることがわかってきました(Murakami et al., 2007)。ナガエコミカンソウもイヌケホシダも、全国各地の温室から、温室内で育てられたプランターとともに園芸店、各家庭の庭を経て、市街地の石垣や路傍へ移入しているのかもしれません。それにしても、最近になって急にナガエコミカンソウやイヌケホシダのような温室雑草が都市部で目立つようになった理由の一つには、ヒートアイランド現象と地球温暖化による都市部の気温上昇が、何か関係しているのではないかと思います。最近、日本の冬は暖冬が大変多く、2007年の1~2月も記録的な暖冬でした。また、大阪市では、2006年に7月25日から8月31日まで38日間連続の真夏日を記録しました。つまり,8月の31日間すべて最高気温30度以上だったわけですが,これは同じ年の8月の那覇市(沖縄県)の真夏日が30日間であったのを上回っています。こんなデータを見ると,温室雑草が大阪の都市部に生育するようになっても不思議ではないように思えます。都市内に移入し,増加しつつある雑草の姿を見ると、今や大阪は温室並みに暑くなっていると言えるのかも知れません。

※このコラムは「きしわだ自然友の会誌Melange」6巻4号:1. (2007)に執筆したものに加筆、修正したものです。

 

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図1.ナガエコミカンソウ全景

図2.ナガエコミカンソウの果実、果柄

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図3.ナガエコミカンソウ

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