top of page

ウラジロ(Gleichenia japonica

村上 健太郎

 ウラジロ(ウラジロ科)は,自然観察会で名前をいうと,「ああ,お正月の?」と言われるくらい有名で,多くの説明をしなくても,よく知られているシダ植物です.植物に全く興味のない方であっても,お正月の玄関先で見たことがあるのではないでしょうか?

 

 ウラジロは,しめ飾りにつけられることで知られており,ユズリハやダイダイとともに縁起物としておなじみです.また,鏡餅などの掻敷(かいしき:食物の下敷き)としても使われていますが,これは鏡餅に限らないようで,ササやヒノキなどとともに,さまざまな料理の下に敷くものとして使われてきました.私は,京都市内の八百屋さんで,一面に敷き詰められたウラジロの上で野菜や果物が売られているのを見たことがありますが,これがなかなか美しく,素材の見栄えもよくなるのです.掻敷にウラジロやヒノキを使うのは,腐敗防止などの機能面も考えられる一方,花や葉を敷き詰めることによって,料理を美しくおいしくし,食事を楽しくするという要素が強い(花田・中山,1972)ようですが,これらのことから考えても,昔から,人々がウラジロを美しいと感じたり,何かしらの神的なパワーを感じてきたりしてきたのは間違いないでしょう.

 ところで,ウラジロは根茎が長く地下を這い,斜面に大群落を作るという特徴を持っています.ウラジロ以外にも,ワラビやホシダなど,根茎が長く地下を這うという特徴を持っているシダ植物はありますが,中でもウラジロは葉の大きさ,背の高さなどから見ても林床で出会うと,とても印象深い植物です.また,ウラジロは,春先に二又状の葉の間から,フィドルヘッド(うずまき状若葉)を伸ばすという特徴を持っています.これが毎年繰り返され,古い葉の上に,次々に新しい葉が重なってゆくので,原則的には,半永久的に背が高くなっていくはずです.実際にそうなっていないのは重みで倒れてしまうからでしょう.ウラジロの分布は熱帯アジアから日本にかけてで,北限は山形県などの東北地方南部になりますが,寒い地方ほど,ウラジロも大きくならないそうです.関西あたりでは林床に繁茂しすぎて厄介者のウラジロも,東北地方では林床にひっそり生育する稀少植物なのかもしれません.

 私が思うに,ウラジロに対して,人が何かしらのパワーを感じる最も大きな理由は,何といっても林床に大群落を作るからではないでしょうか?また,ウラジロが一斉に,にょきにょきとフィドルヘッドを伸ばす姿を見た先人たちが,長寿や一族の繁栄・永続性への願いと,ウラジロを結びつけたとしても,なんら驚くことはないように思います.

 

 ウラジロが縁起物に使われている理由には諸説あるようですが,葉裏の白さと「身の潔白」が関係しているとか,二又状に分かれる羽状の葉を夫婦と見立てているなどという説をよく耳にします.また,毛むくじゃらのフィドルヘッドを男根に見立てて,一族の繁栄を願ったものとも言われています.これらは,どの説をとっても,本当らしいと感じられますが,ウラジロのあらゆる特徴がその圧倒的なパワーを感じさせるものであるということなのでしょう.

 

 これに加えて美しさを兼ね備えているウラジロは,シダ植物の王様のような存在といってもいいかもしれません.

(引用文献)

花田陽子・中山ハルノ(1972)掻敷.中村学園研究紀要5: 175-179.

※このコラムは、「都市と自然」406号: 12(2010)に掲載したものを一部改変して再掲したものです。

図1. 林床のウラジロ群落とフィドルヘッド

図2.ウラジロの葉裏

ウラジロ見本.jpg
ウラジロ葉裏.jpg
bottom of page